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稲盛和夫塾長経営理念その16

哲学的なものを身につける人生


 私は80歳を越えました。20歳年下の60歳くらいの世代になれば、

青年時代はもっと社会が安定し、経済も良くなっています。

そうした時代では、頭が良くて優秀であれば、大学に入れ、卒業後は

いい会社に入れたでしょう。

 ただそうすると苦難に遭遇していませんから、哲学宗教の勉強と

いってもせいぜい論語をかじった程度だろうと思うのです。

実際、論語を話すことはできても、全然身についていない人が多い。

哲学的なものを身につける人生を送っていないからです。

確固とした素晴らしい人生観、価値観を持って「こういう生き方を

すべきだよ」と部下に説ける人は皆無じゃないかと思う。

 それが私にできるのは、少年時代も青年時代も社会に出てからも、

成長の過程における逆境というものがあり、哲学的なことを模索して、

自分なりに人生観や価値観を構築してきたからです。

そして、そういう哲学的なもので従業員に働きかける経営をしてきた

わけです。当時は「何でこんないっぱい苦労をしないといけないのか」

と恨み節を口にしたこともありましたけれども、今改めて考えてみますと

手を合わせて拝みたくなるくらい素晴らしい逆境を与えてくれたと思い

ますね。

 ですから人間というのは、苦労に直面すればそこから逃げるんじゃなしに、

真正面からそれを受け止めて、成長の糧にしなくちゃいけない。

苦難は受け止め方によってマイナスにもなるし、プラスにもなると思うのです。



      『経営者とは 稲盛和夫とその門下生たち』日経BP社刊より