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稲盛和夫塾長経営理念その15

経営はマラソン


 私はよく企業経営をマラソンに例える。昔はラジオ、今はテレビで

マラソンの実況を聴いたり見たりするのが大好きなのだ。

戦争に負けた日本の企業マラソンレースは昭和20年(1945年)

に再スタートを切った。戦前から長く続く大企業などはいわば有名選

手で、戦後、タケノコのように出てきたヤミ商人らは無名のランナー。

旧財閥系も含め、有名、無名の選手がいっせいに企業戦争という長丁

場のレースを走り出した。

 私の京セラは1959年の創業であり、すでに先頭集団がはるか

14キロ先を走っている。そんな時にようやく出発地点に現れたとい

う格好だ。しかも長距離にはまったくの素人が、貧乏でシューズさえ

買えず、地下足袋に股引のみすぼらしい姿である。

 これまで一度も走ったことがないのに、いきなり42.195キロ

を完走できるのか。本人にもわからないのだが、闘争心だけは人並み

はずれておう盛だ。出場を決めた以上、全力を尽くそうと悲壮な決意

を固めている。なにしろ、資金なし、人材なしの裸一貫。ままよ、倒

れるまで突っ走るだけだと過酷なレースを無我夢中でダッシュした。

 進むほどに、歩き出したり、コースを外れて倒れ込んでるひとがい

る。それを横目にひたすら歯を食いしばって前だけを見て大地を蹴っ

た。ふと角を曲がって直線の見晴らしのきくところにきたら、二部上

場という第二集団の後ろ姿が見えるではないか。

よくぞここまで、と思わず叫びたくなった。


             『ガキの自叙伝』日本経済新聞社より