フィロソフィを共有する



 私はずっと、フィロソフィの話をしてきました。

フィロソフィとは考え方のことですが、考え方を従業員に

話し、従業員に理解してもらい、その考え方をいっしょに

共有するということです。

 つまり、トップの社長も従業員も同じような考え方、

同じような思想、同じような哲学をもつようにしてください。

それは末端の従業員、つまりアルバイト、パートのおばさん

に至るまで同じような気持ちになるところまでフィロソフィ

を伝えてください。そういってきました。

 フィロソフィをただ話すだけではありません。みんなが

いっしょになって理解し、共有してくれるところまでいか

なければならないのです。

 理解し、共有している状態とは、社長は従業員のことを

思い、従業員は社長のことを思ってくれる。そういう関係に

なることを、私は「フィロソフィを共有する」というふうに

いっているわけです。


   『不況を乗り切る5つの方策』サンマーク出版 より

新しい計画を成就する


 新しい期が始まり、各部門では自分たちが立てた、新たなマスター

プランの達成に向け、勇躍スタートを切られたことと思います。

そのような新しい計画にチャレンジする皆さんに、ぜひ理解していた

だきたいことは、人間の持つ「思い」が、いかに大切かということです。

 私は1982年に、次のような経営スローガンを年初に掲げました。


 新しき計画の成就は、ただ不屈不撓の一心にあり。

さらばひたむきにただ想え。気高く強く一筋に。



 これは、新しい計画の成功を望むのであれば、どんなことがあろうと

も、決してあきらめず、だだひたむきに気高く、つまり純粋に、そして

強烈に思い描き続けることが大切であり、そうすればどんなに難しい目

標であろうとも、必ず成就できるということを意味しています。

 私が、この経営スローガンを通じて言いたかったことは、人間の

「思い」には、ものごとを成就させる力があるということ。

特に、その「思い」が気高く美しく純粋で一筋なものであるなら、最大

のパワーを発揮して、困難と思われる計画や目標も、必ず実現させてい

くことができるということでした。


            京セラ社内報『敬天愛人』2008年5月より

毎日を「ど真剣」に生きなくてはならない




 これは私が社員や盛和塾塾生によく言う言葉で、私自身の

信条でもあります。

一度きりの人生を真摯な姿勢で「ど」がつくほど真剣に生き

抜いていく、そのたゆまぬ継続が人生を好転させ、高邁な人

格を育み、生まれ持った魂を美しく磨き上げていくのです。

利他に徹し、

広い視野を持って経営を行う




会社のためという「利他の行い」も、会社のことばかりだと、社会

からは会社のエゴと見える。家族のためという個人レベルの利他も、

家族しか目に入っていなければ、別の視点からすると家族という単

位のエゴと映るかもしれないーしたがって、そうした低いレベルの

利他にとどまらないためには、より広い視点から物事を見る目を養

い、大きな単位で自分の行いを相対化して見ることが大切になって

きます。

たとえば会社だけ儲かればいいと考えるのではなく、取引先にも利

益を上げてもらいたい、さらには消費者や株主、地域の利益にも貢

献すべく経営を行う。また、個人よりも家族、家族より地域、地域

より社会、さらには国や世界、地球や宇宙へと、利他の心を可能な

かぎり広げ、高めていこうとする。

すると、おのずとより広い視野を持つことができ、周囲のさまざま

な事象について目配りができるようになってくる。そうなると、客

観的な正しい判断ができるようになり、失敗も回避できるようにな
ってくるのです。


                「生き方」サンマーク出版より

『人間として正しいことを、
   
            正しいままに貫く』





 京セラは、私が二十七歳のときに周囲の方々につくっていただいた

会社ですが、私は経営の素人で、その知識も経験もないため、どうす

れば経営というものがうまくいくのか、皆目見当がつきませんでした。

困り果てた私は、とにかく人間として正しいことを正しいままに貫い

ていこうと心に決めました。

 すなわち、嘘をついてはいけない、人に迷惑をかけてはいけない、

正直であれ、欲張ってはならない、自分のことばかりを考えてはなら

ないなど、だれもが子どものころ、親や先生から教わったーそして大

人になるにつれて忘れてしまうー単純な規範を、そのまま経営の指針

に据え、守るべき判断基準としたのです。

 経営について無知だったということもありますが、一般に広く浸透

しているモラルや道徳に反することをして、うまくいくことなど一つ

もあるはずがないという、これまた単純な確信があったからです。

 それは、とてもシンプルな基準でしたが、それゆえ筋の通った原理

であり、それに沿って経営をしていくことで迷いなく正しい道を歩む

ことができ、事業を成功へと導くことができたのです。

               「生き方」サンマーク出版 刊より